2015年4月14日

【判例】  礼金の支払義務を課す条項は無効、礼金返還を求める

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建物賃貸借契約の礼金の支払義務を課す条項(礼金特約)は消費者契約法10条により無効であるとして、支払った礼金の返還を求めた事案において、契約期間経過前退去の場合に前払い分賃料相当額が返還されないとする部分について消費者の利益を一方的に害するものとして一部無効とした事例(大阪簡裁 平成23年3月18日判決)

 

○事案の概要
賃借人と賃貸人は賃貸借期間を1年とする建物賃貸借契約を締結しました。その際、賃借人は賃貸人に対し、礼金として12万円を支払いました。
ところが賃借人は契約から1ヶ月と8日後に当該賃貸借契約を解約して退去しました。

賃借人は建物賃貸借契約を締結した際の返還を予定しない礼金の支払義務を課す契約条項は、消費者契約法10条により無効であると主張し、支払い済みの礼金12万円及びこれに対する遅延損害金を求めて提訴しました。

 

結果、賃借人の請求を一部認容する判決となりました。

 

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まず、本件賃貸人は事業法人であり、賃借人は個人の為、消費者契約に該当すると判断されました。
その上で、礼金は広義の賃料であり、中途解約でも返還しないとする契約内容は消費者契約法10条に反し無効である。未使用期間分の前払賃料相当分は返還義務がある。
賃貸借契約締結の際に礼金は返還しない金員であると当事者間で合意したとしても、そのような合意は中途解約の場合に、「前払分賃料相当額が返還されないとする部分について消費者の利益を一方的に害するものとして一部無効である(消費者契約法10条)」と判決しました。

 

広義の賃料とは、
賃貸人は賃借人から受け取る建物使用収益の対価を毎月の賃料だけでなく礼金等の一時金をも含めた総額をもって算定し、一時金は賃貸人の初年度の所得として扱われているので、礼金は実質的・経済的に見て建物の使用収益の対価として授受されている広義の前払賃料であると解釈しています。
したがって、礼金は「予定した期間が経過する前に退去した場合は、建物未使用期間に対応する前払賃料相当額を返還すべきである」。

 

しかしその一方で、賃借人が主張した礼金条項は消費者契約法10条違反に対しては、「礼金の主たる性質は、広義の賃料の前払いであるということができるが、その他にも程度は希薄であるものの賃借権設定の対価や契約締結の謝礼という性質をも有している」とし、「礼金は一定の合理性を有する金銭給付であり、礼金特約を締結すること自体が民法1条2項に反して消費者の利益を一方的に害するものであるとはいえない」として礼金の有効性を認めました。

 

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裁判所の最終判断は1ヵ月と8日間しか本件建物を使用せずに退去している。8日間分を1ヵ月と換算したとしても、前払賃料として礼金12万円から控除できるのは
1万円×2ヵ月分=2万円ということになる。礼金の副次的な性質である「賃借権の設定の対価」と「契約締結の謝礼」分1万円を考慮すると、礼金から控除できるのは金額は3万円ということになり、差額9万円は賃借人へ返還すべきであるとしました。

 

 

あくまで簡易裁判所で争われた事案ですが、礼金の定義に関する興味ある判決と言えるでしょう。
実務においては、契約期間中に、賃借人の都合により契約が解約となった場合の解約精算において、礼金は返還しないことでの対応が多いと思います。本事案で判示された賃料額と賃貸借期間の対応性に照らすと、今後は短期間で退去された際に、礼金を全額返還しないことは不当ということになります。

契約後、短期間で退去する等の特段の事情があるときは、期間対応性の考え方で精算することが求められるかもしれません。