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賃貸借契約において賃貸人と賃借人の間で定める特約の一つである「中途解約」の違約金の期限についてお話し致します。
建物賃貸借契約では、大抵の場合期間が定められており、最近の傾向として期間内や短期間での解約の場合に違約金を定めている事が多くなっています。
違約金の解釈について判例を基に賃借人が個人と法人の違いを見てみましょう。
<賃借人が個人の場合>
個人の場合では消費者契約法が適用されます。
過去の判例としては、「一般の居住用建物の賃貸借契約においては、途中解約の場合に支払うべき違約金額は賃料の1ヶ月分とする例が多数と認められ、次の入居者を獲得するまでの一般的な所要期間としても相当と認められる。」と判示し、1ヶ月の範囲でのみ違約金を有効とし、これを超える部分については消費者契約法第9条(※1)に違反するとして無効となりました。
(東京簡裁平成21年2月20日判決・東京簡裁平成21年8月7日判決)
<賃借人が法人の場合>
法人の場合は消費者契約法の適用はありませんので、上記の判例に準ずる必要はありません。
しかし、過去の裁判例で「賃借人が期間満了前に解約する場合は、解約予告日の翌日より期間満了日までの賃料相当額を違約金として支払う」という条項のある期間4年の建物賃貸借契約を締結した賃借人が10か月で解約し、賃貸人から上記条項により3年2カ月分の賃料相当額の違約金を請求されたというものがあります。
裁判所の判断は、高額の違約金に対し「約3年2ヶ月分の賃料の違約金が請求可能な約定は賃貸人に著しく不利であり、賃借人の解約の自由を極端に制約することになる」としたうえで、違約金は1年分の賃料相当額の程度では合理性があり有効だが、それ以上の部分つまり2年2カ月分は無効と判断しました。
(東京地裁平成8年8月22日判決)
もちろん、このような判断は、当該事例に対するものであって、これを一般化して、「違約金の有効期間は1年まで」と考えることはできません。とりわけ、上記事案では、新しい賃借人が退去後数ヶ月で入っているという特殊な事情もあるので、裁判所の言う「事実上賃料の二重取りに近い結果」というのが認め易かったことも大きく作用しているともいえます。
上記の判例より一つの目安として考えられるのは
1.賃借人が個人の場合、1ヶ月程度の金額で有れば認められやすい
2.賃借人が法人であったとしても、違約金が高額になると賃借人からの解約が事実上困難となり、賃貸人が早期に次の賃借人を確保できた場合には事実上賃料の二重取りに近い形になるため、公序良俗に反して無効となる場合がある
中途解約金条項を決定する際のポイントは、賃借人が個人か法人か、「解約後にどの程度の期間で新しい賃借人を確保でそうか」になるでしょう。
その点に注意して違約金を設定していれば、違約金を受け取る事は可能だと思われます。
※1 消費者契約法 第9条
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一、当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二、当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分